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つづきから「夢見るマグノリア~メイドの独白編~」その3です。
サブタイ「階下は訪問客にてんやわんや」

作中「当主様」と呼ばれているアンディの父親の半生
【貴族の次男(第三子)に生まれる】→【兄他界により急遽跡取りに】→【弟が生まれ兄になる】→【兄の“お下がり”の許嫁を断っちゃう】→【新しい恋人が出来る】→【フラれる】→【女性不信に陥るorz】→【弟はさっさと結婚して男の子をもうける】→【よく支えてくれる優秀な弟と甥がいるし、別に後継ぎには困っていない】→【結婚とかもうどうでもいい】→【気まぐれで出席した夜会で美女に出会う】→【電撃結婚】→【後継ぎになりうる男の子ふたりに恵まれる】←いまここ

 猟場番人長は先代様の頃から務めるおじいさんだった。お茶の頃になると階下にやって来て、若いスタッフたちとテーブルを囲みならが、うそかまことか、ご家族たちの話をしていくことがたびたびあったんだけど、「今の当主さまは、正式に婚約していたわけではないけれど、恋人だった人に裏切られてしばらく女不信に陥っていたんだ。それで長いこと独身だったんだよ」とかそんな話を聞くことが出来た。

 中でも強烈に覚えているのはこんな話だ。
 テレサはアンディの許嫁の少女を指してこう言ったというのだ。
「あんな女の子、大嫌い!豚と間違われて猟犬に狩られちゃえばいいのに!」
 今ならテレサの複雑な乙女心も含まれていたんじゃないかと思えるんだけど、これを聞いた時にはなんて女の子かしら、良家の子女にあるまじき暴言だわ、と呆れた。同時に、この話を聞かされた頃には私はもうここに腰を据えて働く気になっていて、その豚に似た少女が将来屋敷を執り仕切る奥様になることに気付いてぞっとした。

 でも、アンディの許嫁だというその豚少女にはお目に掛ったことはない。
 アンディのあの性格じゃ何度か会ううちに幻滅されて、婚約指輪を返されたんじゃないかしら。彼は確かにみ目麗しく見た者の目を喜ばせるけども、夫は飾棚に飾っておくものではないものね。

 テレサの敵は他にもいた。奥様の姪のヒルダだ。屋敷にやってくる少女はほかにもいたけれど、ヒルダが一番の敵だった。
 突然の訪問だった。普通は子供や犬を連れての訪問は、先方にきちんと連絡を取ってから出掛けるのがマナーじゃないかと思うんだけど、執事が連絡を忘れたのか、奥様のご実家はその辺がルーズなのか、とにかく何の連絡もないまま一家総出でやってきた。
 馬車が隊列をなして突進してくるのを、猟場番人がいち早く見つけ、大慌てで連絡してきた。屋敷は蜂の巣をつつくような騒ぎになった。もてなしの準備が何もできていない!
 そういう騒ぎの中に、廊下で蒼白になりぼんやり立ちつくすテレサを発見した。奥様たちには侍女が付いて、他のメイドたちの手も借りておおわらわで着付けている最中で、テレサのことを誰もがすっかり失念していたのだ。
 自分は普段着のワンピースでいるところに、敵がめいいっぱいめかしこんで現れる。こんなことってあるかしら。テレサはいけすかない女の子だけれど、同じ女としてこんな恥をかくのを黙って見ているわけにはいかない。なんとかしなくちゃ!でもどうやって?
 彼女の窮地を救ったのは、あの頭の悪い話し方をするペイシェンスだった。ドレスを持って現れるや否や、あっという間に着付けてしまった。

 初めて見るドレスだった。こんなこともあるだろうと思って、あらかじめ作ってあったのだ。これがプロフェッショナルの仕事だ。普段は無邪気な、子供のような顔をしたペイシェンスが、眉を吊り上げて実に鮮やかな手付きで紐を引き絞りリボンを巻き付けて、テレサを着つけていく。私はその傍らで補佐をしながら、彼女の手腕に舌を巻いた。
 髪をくしけずりリボンと花をあしらった華やかな帽子をかぶせると、数分と経たないうちに、テレサはお客さまを迎えるご令嬢として申し分ない姿になった。

 お客さまをお迎えして、何事もなかったかのようにパーティが始まった。本当は恐ろしく短時間であらゆる支度をしたため、階下は誰もがくたくただったんだけれど、執事やフットマンたちは、まったく非の打ちどころの無い慇懃無礼な様子で給仕に当たった。彼らもまた、プロフェッショナルなのだ。私もそんなふうに振舞えただろうか。フットマンたちの後ろに控えて、給仕を補佐しながら、目立たずさりげなく、感じのよい微笑を保っていたつもりなんだけれど。

 給仕を補佐しながら、訪問客の少女たちの中にやたらアンディとアルクのそばに寄っていく女の子がいることに気付いた。これがヒルダだった。美少女と呼べる顔だとは思う。でも私は“極上”の美少年美少女に目が慣れてしまっていて、それほど可愛いとは思えなかった。ちょっと綺麗な女の子に、レースやフリルの服を着せたら誰でもあれくらいにはなるわよ、と思った。
 滑稽なことに、このヒルダはペイシェンスをそのままミニチュアにしたような子で、しゃべりだしたら止まらず手が付けられなかった。
 曰く、
「叔母様のドレスがどうのこうの、アンディがどうのこうの、アルクがどうのこうの、お屋敷がどうのこうの、お庭がどうのこうの、そこに並んでいる使用人たちがどうのこうの」
 こんな具合だった。(私はこっそり気を付けて聞いていたんだけれど、結局彼女はテレサについては一切言及しなかった。彼女にとってもテレサは最大の敵だったのだ。)
 ペイシェンスから縫製の技術を取ったら、彼女もこんな憐れな様子になるのかしら。ヒルダも貧乏な家に生まれていたら、努力次第で何か素晴らしい才能を開花させていたかもしれないのに、と私は残念に思った。

 それから次々と、夢のようにふわふわした、とらえどころの無い、くだらない話を繰り返して、周りが失笑し出すと、自分が人気者だから皆が微笑みかけるのだと勘違いしたらしく、おとなたちの顔を交互に見上げてしなを作っていた。(この間、テレサはひとかどのレディを気取ってつんと澄ましていた。)

 会食の合間、お客様の連れてきた使用人たちと階下で話すのは、どんなときでも楽しみだ。貴重な情報交換の場だったのだ。
 お嬢様の世話をしているメイドがやってきて、進んで自分のところの階上の話を始めた。私は微笑みながら聞いていた。
 ヒルダ嬢様は可愛いけれど、頭の方はてんで見込み無しなのよ、と彼女は言った。そうでしょうとも、と私は密かに思った。
 家庭教師を頼む前に、母親が簡単な勉強を教えようと場を設けても、それよりねお母様、聞いてお母様、とくだらない話を延々とし始める。母親は結局娘に負けて、くだらない話で時間を無駄にする羽目になるということだった。将来夫となった殿方は、あのおしゃべりにはさぞかしうんざりなさるでしょうよ。

「お嬢様はね、キャンディの包み紙を外すより難しいことなんて、考えたことないのよ」
 と彼女が最後に付け足した時、さすがにエチケットに反して吹き出してしまった。
 そんな醜聞を他人に漏らしても、彼女は呼ばれれば「はい、ヒルダお嬢様。いいえ、ヒルダお嬢様」と、甲斐甲斐しく仕えるんだろう。


夢見るマグノリア~メイドの独白編~その4につづく




これでもかってくらい長編になってきました^^;
寄宿学校に入れちゃったらティムが全然出てこなくてどうしようかと悩んでます……。

次回は、てんやわんや後半戦です。
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