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「英国メイド マーガレットの回想」を読んで、うちの「夢見るマグノリア」のメイドがこんなノリで語ったら、どんな話になるかと思って書き始めたら、結構長くなってしまいました(´∀`;)
ファイルの読み込み、保存に時間が掛るようになってきたので、出来た部分からちょっとずつ公開していこうと思います。

つづきから「夢見るマグノリア~メイドの独白編~」その1
まだほとんど人物紹介です。

 お屋敷勤めを始めて、いくつめかのお屋敷は、爵位のある本物の貴族の家だった。成り上がりの実業家でもなく、ちょっとしたお金持ちが体裁のために使用人を雇って、実態は倹約を提唱しケチで窮屈な生活を強いられるのでもなく、何もかもが本物の高級品で出来ていた。

 本物の高級品!私が求めていたのはこれなのだと感じた。ほとんど直感に近かった。自分の所有物でなくったって構わない。
それらしい色の塗料を塗ったんじゃない、本物のマホガニーの調度品、よく手入れされた銀食器、洗練されたマイセン製の陶器。間近で眺めていられれば私はそれで満足だった。

 執事というと、年を取っていて背が高く幅もある巨漢を連想するけれど、この屋敷の執事は違っていた。中肉中背で、物静かなイメージのある執事という肩書に似合わず快活にはきはきと話す人で、階下のスタッフへの指示を出す時もてきぱきしていた。もちろん階上では“物静か”だったんだろうけれど。執事のマークスさんは、赤毛でいつもエネルギッシュだった覚えがある。
 しかもずいぶん若い人だった。三十代半ばくらいに見えた。その時も若いと思ったのに、ここで執事として職を得てから結構長いんだと話していたから、かなり若くして執事になったことになる。

 そうそう、新しい雇用主は爵位付きだと話したけれど。爵位を叙された初代は、建国王の従兄に当たる人物で、遠征の際もその右腕として活躍したという伝説の英雄だった。この国の人なら一度はその伝説と名前を聞いたことがあるんじゃないかしら。そんな偉い人を先祖に持つなんてどんな気持ちがするか、想像もつかない!私は目眩がしそうだった。
 その英雄の子孫たちがこの屋敷で生活していた。私がスタッフとして入った時は、屋敷の当主と、既婚の弟様、それと先代様の弟という人がまだ生きていて、その人とその息子たちが一族の主なメンバーだった。
 といっても、実際屋敷に住んでいるのは当主とその家族だけだったし、一族の男の人たちは頻繁に出入りしたけれど大体の人は自分の館に執事をはじめとする使用人をちゃんと抱えていて、私たちを煩わせることはあまりなかった。当主は、叔父やいとこたちの言いなりになんかならなかったのだ。

 当主である私たちの雇用主は、あまり情に篤いタイプじゃなかった。でもさすが長く続く貴族の家柄の人は違うもので、下々の者にはに慈悲深く接するのだという考えが代々培われていたんじゃないかと思う。
 階下の人たちの中には、不満を持つ人もいた。「冷血漢」とさえ口にした。
 そういう人は一度本当に劣悪な環境と、無慈悲を恥とも思わない雇用主の下で働いてみるといい。一切階下を気に掛けないのと、気に掛けようとしてうまくいかないのとは違うのだ。
 雇用主とご家族が階下の者を深く信頼して慈悲を持って接し、使用人も愛ある仕事ぶりで応える、なんて話がうそだとは言わない。でもそんな家庭は滅多にないし、私はあまりに人情的なのは肌に合わなかった。私も情に厚くは無いのだろう。優しさだの思いやりだのというのは窮屈に感じる。

 だから、あまり他人に関心が無いはずの雇用主が、自分の受けた教育に忠実に、せめて振りだけでも、何とか慈悲深くなろうと骨折って、階下にチョコレートの箱を買ってきてくれたりするのには好感が持てた。私も雇用主ご家族のため、などの理由では仕事していなかったから。私は私の仕事がきちんとなされ、整然と進行していくことに喜びを持っていたのだ。
 当主の弟様も、同じ種類の人間だったに違いない。彼は兄に対して愛なんか持っていなかった。弟として、当主の仕事を支えるという役割を果たすことに満足していたのだ。

 当主には、まだ小さな子息がふたりいた。十歳になるかならないかという年齢のアンドロ…なんとかいう坊ちゃまと、ふたつ下のアルク…なんとかいう坊ちゃまだった。本当は、使用人たちはご家族を愛称で呼んではならないはずなんだけど、誰も坊ちゃまたちを本名でなんか呼ばなかった。アンディ坊ちゃまとアルク坊ちゃまと呼んでいた。
 下の坊ちゃまは病弱で、奥様が付き添ってあちこちへ出掛けていた。てっきり療養地へずっと行っているんだと思ったんだけど、そうじゃなく、外国の風光明媚な土地を転々と旅行しているということだった。そんなことで病弱な体が丈夫になるのか疑問だけれど、周りの人は“母親らしいお心遣い”だと言って、いたく感心していたのだった。

 弟様のほうは、息子と娘がひとりずついて、名前をティモシーとテレサといった。綺麗な栗色の髪の兄妹だ。
 ティモシーは十二歳になる少年で、年の割には体が大きく実際よりも妹と年が離れて見えた。私が屋敷に入って間もなく寄宿学校に上がってしまったので、あまり会った覚えがない。
 テレサはアンディと同い年、背格好も容姿もそっくりの美少女で、そのうえ激しい気性まで瓜二つだった。そこは似なくていいのにね。
 なんといっても素晴らしいのは、目の色だ。右はアンディと同じ青みがかった緑色、左は自分の母や兄と同じグレーをしていた。何か運命を背負って生まれてきた、といった風情だった。上流の方々はやはり下々とは違うのだ。
 弟様は子供たちを連れてよくこの屋敷にやってきた。アンディは自分の弟よりも、このいとこたちと過ごすことのほうが多かった。

 当時の屋敷には、少女を描いた肖像画が一枚、飾られていた。誰を描いたものかは誰も知らないという。なにせ、差出人不明の小包でアンディ宛てに送られてきたというのだ。画家の名前もわからなかった。その絵は木蓮の花を背に眠る少女像、「夢見るマグノリア」と呼ばれていた。当時はそういう、何か得体の知れない薄気味悪いものが屋敷のそこかしこにあったんだけれど、私は全然気にしなかった。
 カーテンの間に愛人の遺体を縫い込んであったとか、床下に子供の頭蓋骨がごろごろ隠されているとか、大きな屋敷にはよくある怪談でしょ?
 第一カーテンは季節ごとに取り替えて洗っていたし、誰も床板をひっぺがしてみたことなんかなかったんだから。

 ある時、寝支度をしていると、同室の女の子がひどくおびえた様子で泣きながら部屋に戻ってきた。
 彼女は私が寝ようとしているのを見て制止した。
「待って!まだひとりにしないで。私、怖いのよ」
「なにがよ」
「今あの部屋の片付けをしてきたんだけど、背中を向けているとマグノリアの目が開いてこちらを見ているような気がするの!」
 私は返事の代わりに溜息をついて、さっさと寝台に潜り込もうとした。
「お願い、ルース!私、怖い、怖い、怖い……!」
「あのね、ドナ。あの絵の目が開いたからって何なの?あなたも負けずに睨みつけてやればいいじゃないの」
「そんなこと言わないで!亡霊を怒らせたらどうなるか……」
「何が亡霊よ、莫迦莫迦しい。私はもう寝たいの、邪魔しないで!」
 大体、マグノリアに限らず、人物画ならほかにもあった。代々当主の肖像画を飾った先祖画ギャラリーなんか、言ってしまえば亡霊だらけだ。初代様が使った本物の甲冑も保管されている。あれだって、多くの人の血を吸った、正真正銘亡霊のたまり場ではないか。死んだ人が怖い、などと言っていては、この屋敷で仕事はできない。
 そもそも自殺した人の遺体は、教会に埋葬することは許されず、四辻に埋められるのが当時の習わしだった。我々はその上を日々闊歩していたのだ。今更死んだ人が怖いなど、莫迦莫迦しい!
 意気地無しのドナはまだ食い下がってきた。
「ルース、お願い、お願い。まだ寝ないでちょうだい。怖い!怖い!」
 私はシーツを跳ねのけて、がばと起き上がるなり叫んだ。
「私は絵の中のお化けなんか、どうでもいいのよ!それより、今寝ないともっと怖いものがやってくる。寝かせて!」
「お化けより怖いものって、何?」
「首よ!ろくな紹介状も貰えずにこの屋敷を追い出されるのが怖いのよ。実家の父母には仕事を無くした私を養う余裕なんか無い。汚い安宿で娼婦になるなんてまっぴらだわ!おやすみ!」
 一気にまくしたてると、私はもう一度シーツに潜り込んだ。

 そういう怪談の類も、私の情熱を冷ますのに役に立たなかった。初代は建国王の従兄で、由緒正しい名門の家柄だ。調度品の数々は一流仕立ての一級品、屋敷は何百年と経過した国宝級の建築物。私はその肩書が気に入り、ここで長く務めるんだと決意した。絵の中の少女のお化けなんか、へいっちゃらだった。
 メイド仲間がぼやいていた象嵌細工の手入れは、私は密かに喜んでやっていた。なにが面白くないのかしらと思ったくらいだ。
 彼女たちは細工のすきまに汚れが入り込むのが嫌なのだ。余計な手間が増えるから。
 私は仕事と称して、そういう細工をじっくり眺めていられるのは役得の一種のように感じていた。あらゆる事象は、価値を認めるものがいなければ無意味なのだ。
 満腹の人にチョコレートを差し出しても、喜んでは貰えないっていうのと同じ。あるいは豚の前に真珠を転がしたのと同じ。

その2へ続く
次回は執事にスポットが当たった話になります。
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